1997年・円こどもステージ作品
あらしのよるに
反響のファイル
(1)
劇評「こども未来」98年4月号より
多摩川大学名誉教授・岡田 陽氏
「あらしのよるに」は絵本作家・木村裕一氏の
3連作「あらしのよるに」・ 「あるはれたひに」・「くものきれまに」
を作者自身が舞台版に書き直したものです。
あらしの夜に、山小屋の中で出会った
若いヤギとオオカミが、くらやみの中で話し合っているうちに
意気投合し親友となるのですが、
一夜明けてみると、この友情にはたいへんな困難が山積し、
それぞれに 苦しまなければならないことに気付きます。
主役の若いヤギの誠実さ、
オオカミの朴訥さが子ども観客の共感をよび、
きわめて明瞭な四場構成によって、
進行中の状況がよくわかり、
子どもは ハラハラドキドキしながら舞台を見守っています。
幕間の舞台転換にカエルの歌が入り、
話の展開を客観的に整理して考えさせる手法が
成功していますし、劇中豊富に入る小森昭宏作曲の
音楽が親しみやすく、良い効果 をあげています。
人が生きてゆくということに対して、
グローバルな問題提起をしている秀作と いえましょう。
1997年・円こどもステージ作品
あらしのよるに
反響のファイル
(2)
劇評「げきじょう」’98年冬号(子ども劇場・全国出版部発行)
演劇評論家・江原吉博氏
簡潔・骨太なストーリーに素直に感動
がけの上にぽっかりと浮かんだ巨大な満月を仰いで、
いっこうに現れない親友 のオオカミ、ガブ(関貴昭)
の訪れを待ち続けるヤギのメイ(金田明夫)。
その寂しい後ろ姿は、観客の胸を
切なさできゅっと締め付ける。
私たちははすでにガブ(オオカミ)がメイ(ヤギ)
を食べようとする仲間 たちと争い、
がけから落ちて死んだのを知っているからだ。
弱肉強食の動物界で、オオカミとヤギが親友になり、
お互いをかばって仲間と争う など、おおよそあり得ないことだ。
それはこちらも十分承知している。
が、だからこそ命がけの美しい友情に感激し、
感動もするのだろう。
私も子どもをもつ親として、わが子がガブのような
強くて優しい子になって くれたらと思う。
いや、むしろ私自身もそんな人間でありたいと思う。
岸田今日子の企画による、円こどもステージ「あらしのよるに」は、
簡潔で 骨太なストーリーが、親子ともどもそれぞれの仕方で
感動させてくれる舞台で ある。
木村裕一の原作の魅力もむろんであるが、
幕切れの余韻と感動の源泉は なにより
メイ役の金田明夫の愛らしさによるものだ。
大人の役者に「愛らしさ」 など決して
ほめ言葉にならないだろうが、
あえてそう言うしかない金田の独特のキャラクターが
強く印象に残った。
もちろんそれだけではない。
場面転換をうめるカエルの合唱もいい。
二匹のカエル(小森創介・佐藤せつじ)の
とぼけた表情、とぼけた歌詞、コミカルな音楽と
どれもが無類におかしい。
これには子どもも爆笑だ。
小森昭宏の音楽が、素敵なミュージカルを
見た後のように 口をついてでてくるのもまたいい。
帰りの道々、劇中歌を口笛で吹いている自分に
思わず苦笑したほどだ。
ただ一つ難をいえば、嵐の夜、メイとガブが出会って
再会を誓う小屋の中が 暗すぎたことだ。
相手が見えないと想定しての会話は、
客席からは二人の表情 が見えた方がおもしろい
。もちろんこれでその舞台のおもしろさが断然変わる
というほどのことではないのだが。
演出は小森美巳。
オリジナルサウンドトラック
あらしのよるに
円・こどもステージ No.16 (1997年12月初演)
作詞 木村裕一 作曲 小森昭宏 絵 あべ弘士
制作 株式会社 小森音楽事務所
小森音楽事務所 制作部